金属結晶の不思議な世界 1 |
卵型二液相分離合金 |
「水と油」は、仲が悪いものの代名詞としてよく用いられます。これは、水に対して油は溶け込まないし、逆に油にも水は溶け込まないためです。また、両者を機械的に混合しても、時間がたつと水と油の2つに分離してしまうことは、サラダドレッシングなどでもよく見られます。このような現象は二液相分離と呼ばれ、金属材料学的にも非常に重要な現象です。 金属で「水と油」の関係にある元素として、「鉄」と「銅」があります。これらの合金では1,430℃以上の高温ではどんな割合でも溶け合いますが、低温では仲が悪く「鉄」を多く含む相と「銅」を多く含む相へ二液相分離してしまいます。写真は、鉄‐銅基合金の液滴を1秒以内に室温まで急冷することができるアトマイズ法で作製した粉末の断面を、光学顕微鏡で撮影したものです。外側が銅に富む相で内側が鉄に富む相です。 通常の方法で冷却した場合、地上では上下に分かれてしまいますが、無重力状態の宇宙実験でこのような構造が得られることが知られていました。この写真は、地上の実験でも形成されることを私たちが世界に先駆けて示したものです。(文献参照)このような特異な構造は分離する2つの液体間の表面張力が温度によって大きく変化するためと考えられ、「鉄」と「銅」だけでなく二液相分離する合金系において生じる現象であり、鉛を使用しない環境に優しいハンダ材料、高性能触媒など多くの用途が期待されます。 C.P. Wang, X.J. Liu, I. Ohnuma, R. Kainuma and K. Ishida, Science, 297(2002) 990. |
東北大学大学院工学研究科 及川 勝成・大沼 郁雄 |