シリーズ食の哲学
<4> 食と健康
緑茶と健康
栗山 進一=文
text by Shinichi Kuriyama

ヒトを対象とした医学的効果の研究を

 食と健康を考える際、忘れてはならないのが飲み物の効果です。特に、お茶やコーヒーなどは習慣的に毎日摂取するものですので、例えわずかであってもこれら飲料の摂取が健康上有益であるとしたら、その影響はとても大きなものになります。
 緑茶は昔から健康にいいといわれてきました。最近の医学研究でも、細胞レベルの研究や動物実験ではその有益な効果が多数報告され、海外でも緑茶ポリフェノール、特にカテキンは大きな注目を集めるようになりました。しかしながら、ヒトを対象とした研究はほとんど行われてきませんでした。医学的な効果は最終的にヒトを対象として確認される必要がありますので、緑茶の摂取が健康上有益かどうかは、一定の結論が得られていませんでした。そこで私たちは緑茶と疾病予防との関連を、ヒトを対象とした疫学研究で調べました。

緑茶摂取と認知機能の関連

 まず私たちは、高齢者における緑茶摂取と認知機能との関連を検討しました。ある時点での緑茶摂取と認知機能の関連を調べるもので、横断研究と呼ばれています。平成14年7月から8月にかけ仙台市鶴ヶ谷地区において、70歳から96歳の高齢者1003人のご協力のもと、緑茶摂取頻度などの調査と認知機能テストを実施しました。その結果、緑茶摂取は認知障害の低い有病率と統計学的有意差をもって関連していました。
 緑茶の摂取状況によって対象者を「週3杯以下」「週4〜6杯または1日1杯」「1日2杯以上」の3グループに分け、認知機能の評価にはMMSEという指標を用いました。MMSEは30点満点で、26点未満では中等度の認知障害が疑われます。週3杯以下のグループを基準として26点未満の割合を算出したところ、週4〜6杯または1日1杯のグループでは38%少なく、さらに1日2杯以上のグループでは54%も少ないという結果でした。紅茶またはウーロン茶の摂取頻度別、コーヒーの摂取頻度別の検討では、どちらも有意な関連はみられませんでした。

緑茶は疾病予防にも効果的

 次に私たちは、宮城県大崎保健所管内に住む40〜79歳の40,530人を対象としたコホート研究から、緑茶摂取と死亡率との関連を検討しました。コホート研究とは、ある時点での生活習慣などを調査し、その後対象者を追跡調査して死亡やがん罹患などの状況を検討するものです。1994年に食物摂取頻度調査票などを用いたベースライン調査を行い、その後、各死因での死亡については7年間、全死因死亡については11年間の追跡調査をしました。
 その結果、緑茶を1日5杯以上飲むグループは、1杯未満のグループと比較して男性で12%、女性で23%、全死因死亡のリスクが低下していました。疾病ごとにみると循環器疾患でより強い関連がみられ、男性で22%、女性で31%低下していました。循環器疾患の中でも脳梗塞は特にこの傾向が顕著で、女性では62%も下がっていました(図)。
 以上のようにヒトを対象とした疫学研究で、緑茶摂取と疾病予防との関連が明らかになりつつありますので、緑茶を多く飲むことはお勧めですが、熱い飲み物は食道がんの原因になる可能性も疫学研究から示唆されています。飲むときは少し冷ましてからいただくのがいいと思います。

緑茶摂取と脳梗塞死亡リスク


東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野准教授  栗山 進一 くりやま しんいち
1962年生まれ
東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野准教授
専門:生活習慣病の疫学、特に肥満と神経疾患
http://www.pbhealth.med.tohoku.ac.jp/


ページの先頭へ戻る

前頁へ目次へ 次頁へ