クローズアップ 地域と大学 宮城県内の住民を対象とした
脳の加齢に関する画像研究
―青葉脳画像プロジェクト、鶴ヶ谷プロジェクト
福田 寛=文
text by Hiroshi Fukuda

 老化の中でも、特に脳がどのように老化するのか、皆様の最大関心事と思います。私たちは、1998年頃から仙台市を中心に県内に住んでいる健康な方を対象として脳の磁気断層画像(MRI)を撮影して、データベースを作成しました。これまでに約2000例を超える画像を集積していますが、これは国内唯一の大規模データベースです。また、世界的にみてもこの規模のものは数施設しかありません。これらは、「青葉脳画像リサーチセンター」(通信放送機構プロジェクト/プロジェクトリーダー福田寛)と、仙台市鶴ヶ谷地区に住む高齢者を対象とした「鶴ヶ谷プロジェクト」(プロジェクトリーダー/辻一郎)の研究過程で蓄積されたものです。このデータベースの対象者は、20歳代〜70歳代まで広い年齢層にわたり、脳の老化(加齢)を研究するには最適です。
 脳の老化を画像でみると、脳容積が減少する萎縮、虚血性変化、中でも症状はないが極小さな脳梗塞が増加してきます。今までの解析から、日本人の脳老化について興味深い結果が得られていますので、その一部である脳萎縮を中心に紹介します。
 脳は、神経細胞が集まっている「灰白質」、神経線維の集まっている「白質」(灰白質の内側にある白い部分)および代謝物や老廃物を循環させて血液に戻す「脳脊髄液腔」に大別されます。これらをコンピュータで自動的に分けて3つの容積を測定してみました。これでそれぞれの容積変化を分けて評価することができます。
 その結果、何と脳の灰白質容積は20歳代からほぼ直線的に減少することが分かりました(図1)。40〜50歳位までは大丈夫だろうと思っていたので、大変驚きました。一方、白質容積の減少はあまりありません。神経細胞から神経線維が伸びているので、神経細胞が死んで細胞が減少すれば神経線維も比例して減少するだろうと思っていましたので、意外な結果でした。この灰白質の減少と相関する背景因子を分析してみたところ、血圧が高い、アルコールをたくさん飲む、太っているなどに影響されると分かりました。つまり、高血圧、過量の飲酒、肥満は脳老化の危険因子ということになります。

図1 加齢に伴う脳容積の変化

 この研究は、年齢の異なる方々の脳容積を比較したもので(横断研究と言う)、厳密には同じひとを長年追跡して測定(縦断研究と言う)しないと、本当の老化による変化は分かりません。私たちは、380人を対象として八年間隔で2回脳MRIを撮影して、その間の脳容積の変化を測定しました。この人数を対象に縦断研究を行うのはとても大変で、これまでほとんど例がありません。
 その結果、男性と女性で灰白質の減少パターンが異なることが分かりました(図2)。男性では、横断研究と同様にほぼ直線的に減少していますが、女性では40〜50歳代まで男性より緩やかな傾きで減少し、それ以後は男性と同様の傾きで減少しています。この違いの背景には女性ホルモンの関与があるようです。女性は強いですね。「弱きもの、汝の名は男なり」でしょうか。

図2 8年間の脳灰白質容積の変化
※黒は同一人の2回のデータを直線で結んでいる。赤は全体の平均的直線である

 今回は、脳の老化について述べましたが、学齢期から20歳位までの若年者の脳がどのように発達するのか明らかにしようとするプロジェクトをまもなく開始いたします。これが完成すれば、発達・成熟・老化の全過程を明らかにすることができます。
 
福田 寛 ふくだ ひろし

1948年生まれ
東北大学加齢医学研究所教授
専門:画像医学
http://www.idac.tohoku.ac.jp/dep/nmr/index.html


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