市民のためのベンチャー講座 4

企業形態を選ぶ


西 澤 昭 夫=文
text by Akio Nishizawa



企業形態とは

 企業を創業することは、前回取り上げたビジネスプランにしたがって、創業目的を達成するために、ヒト、モノ、カネ、情報といった経営資源を調達し、「継続的・計画的に同種の事業活動を行う経済単位」を作り上げることを意味しています。そのためには、ビジネスプランに基づきながら、事業内容、規模、マーケティング、ファイナンス、さらには成長戦略などを検討し、それを実行する上で最もふさわしい企業形態を決めなければなりません。
 具体的に言えば、個人企業か法人企業(=会社)かの選択が必要になります。これは、言い換えれば、自分独りで始めるか、仲間を募るのかという選択だとも言えます。一般に法人企業の方が社会的信用が高く、税制面でも有利な取り扱いがなされています。将来大きく成長する可能性が高く、それを望むのであれば、仲間を募って法人企業を設立することになります。
 法人企業にも、合名会社、合資会社、株式会社、有限会社といった種類があります。これは仲間として企業創業に参加した人々の権利、義務、責任の取り方による区分だといってよいでしょう。ただし、合名会社、合資会社は古い形態で、現在では、株式会社と有限会社が一般的です

<図>

株式会社と有限会社の違い

 株式会社は、歴史的に見れば、鉄道や鉄鋼業などの会社制度として始まり、膨大な設備投資のため巨額の資金を集める必要から、それを金融機関や一般からの投資によって賄おうとしました。そこで、株主の責任を限定し(=有限責任制)、割合的単位に細分化された株主の出資持分権(=株式)の自由譲渡が認められ、株主と経営者の分離が図られました。それだけに、株式会社の設立や運営には、法律的に複雑な過程や厳しい条件が課されています。
 そこで、新規創業企業や中小企業のために、株式会社の優れた面を活かしながら、その複雑なしくみや規定を簡略化した企業形態として、有限会社が認められています。有限会社は、商法ではなく、有限会社法の適用を受けますが、実質的には商法上の会社と異なるものでない、と明記されています(有限会社法第89条)。また、有限会社は、株式会社に組織替えすることもできますから、事業の拡大とともに、株式会社化するケースが多く見られます。有限会社を選べば、小さく生んで、大きく育てることができる訳です。
 このように有限会社は、新規創業に適した企業形態だと言えますが、小なりと言えども一定の手続きや書類が必要です。また実際の設立には、時間経過に従った書類申請など、専門家の協力が必要になります。この設立手続きをスムーズに行うには、資金の調達を含め、事業目的や会社の名前などを事前に決めなければなりません。企業家としては、こうした事前準備や法的な手続きを面倒くさがらず、自らやってみるくらいの気構えが必要なのです。




表 株式会社と有限会社の比較

 株式会社有限会社
1 法律商法有限会社法(商法準用)
2 出資者の名称株主社員
3 出資者の数1人以上制限なし1人以上50人以内
4 出資者の責任出資の義務に留まり会社の債権者に対して責任を負わない株式会社に同じ
5 出資の単位1株5万円以上1口5万円以上
6 資本金1,000万円以上300万円以上
7 出資分の譲渡原則譲渡自由、ただし「取締役会の承認を必要とする」と定款で定めることができる。社員間は譲渡自由、社員外への譲渡は社員総会の承認が必要。
8 意志決定最高機関株主総会社員総会
9 役員会取締役3人以上、監査役1人以上、代表取締役の選任は1人以上取締役1人以上、監査役は任意
10 役員の選任株主総会社員総会
11 役員の任期取締役2年、設立最初1年
監査役3年、設立最初1年
任期の制限なし
12 役員報酬の決定定款、または株主総会定款、または社員総会
13 出資証券の発行株券の発行が必要発行できない
14 出資の募集公募できる公募できない
15 公告の義務決算ごとの必要必要なし



にしざわ あきお
1949年10月生まれ
東北大学経済学部教授
専門:ベンチャー企業政策














東北大学出版会だより3



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