ペットボトルロケットは先端科学技術への入り口
―ものづくり教育による地域貢献―
圓山 重直=文
text by Shigenao Maruyama

ペットボトルロケットによる理科教育

 ペットボトルロケットは、水の入ったペットボトルに、自転車の空気入れで空気を入れると、勢いよく飛んで行きます。子供たちが飛ばしているのをテレビで時々放映するのでご存じの方も多いと思います。一見簡単に見えるペットボトルロケットですが、その原理や飛翔性能を正確に予測するのは難しいのです。大学の講義やセミナーでこの講義を行っているほどです。
 私たちのグループでは、12年前に独自の発射装置を開発しました。それを用いたペットボトルロケット工作実験を毎年仙台市科学館で開催し好評を博しています。出前授業や地域のコミュニティーの依頼で小学生を対象にしたロケット教室も開催しています。また、東北大学の「片平まつり」でのロケット大会は人気イベントの一つです。
 ここでは、このような活動を通した子供たちの理科教育について述べたいと思います。

 大学院生の指導でロケット製作

自分で作ったペットボトルロケットの発射風景

ロケット発射台の開発

 私が航空宇宙学会のお世話をしている1994年に、仙台市科学館でペットボトルロケット工作実験が企画されました。この時、流体科学研究所の皆さんの協力で本格的なロケット発射台を開発したのです。その構造は本物のロケット発射装置と同様の構造で、ペットボトルの圧力を精密に測定できる装置や、スイッチで空気バルブを動かすメカニズムが付いています。この装置は評判が良く、特にロケット装着時にメカニカルな音がするので、子供たちは本物のロケット発射技師の気分が味わえるようです。
 この発射装置は5人が同時に発射できます。センチメートル単位の飛行距離をレーザー測量器で測ります。優秀者を主催者から表彰するので、発射の時の緊張感も味わうことができます。

未来の科学技術者に向けて


 ロケットを作って飛ばす前に、ロケットが飛ぶ原理を子供たちに教えます。内容は易しくしていますが力学の基本法則をキチンと教えるので、小学校の先生も参考になるようです。ただロケットを作るだけと思っていた子供たちも、だんだん目を輝かせて説明を聞いたり、本物のロケットの映像に見入ったりしています。ただし、ロケットの作り方はあまり詳しく教えずに子供達の発想で自由なものを作らせるよう努めています。
 この時、子供たちはいろいろなことを考えます。羽根の形や取り付け角を工夫したり、ロケットの模様を工夫したりします。でも、基本通りに作ったロケットが良く飛ぶので、距離競走で優勝する子供は、あまりロケットに興味を示さない子が多いのです。ロケットが好きな子は、自分でいろいろ工夫(多くの場合は改悪)するので、意外と飛びません。ペットボトルに切れ目を入れて羽根を取り付けビニールテープで塞いだ子供は、空気を入れると水が漏れるので、泣き出してしまったこともありました。
 子供は成功して表彰されることより、失敗して悔しい思いをした方が、一生忘れないと思います。このような、失敗した子供たちの中から将来の科学者や技術者が育つような気がします。
 東北大学の学生で、子供の頃に私たちのロケット実験に参加した人がいます。私の研究室の卒業生の中には、実際にロケット開発や衛星の設計に従事している人がいますから、彼らも将来は最先端科学技術を担うことになるのでしょう。ロケット実験の参加者から日本の将来を担う科学者や技術者が生まれてくれば、望外の幸せです。

 

まるやま しげなお

1954年生まれ
東北大学流体科学研究所教授
専門:熱工学
http://www.ifs.tohoku.ac.jp/~maru/index.html

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