AEDの普及と心肺蘇生法の進化
〜東北大学病院の係わり〜
篠澤洋太郎=文
text by Yotaro Shinozawa

心肺蘇生により救命率を高めるために

 人が急に意識をなくして倒れ、呼吸と循環(心臓の働き)が停止していると判断された場合、「迅速な救急通報〜迅速な一次救命処置〜迅速な除細動〜迅速な二次救命処置」(命の鎖)が必要です。一次救命処置は一般人、二次救命処置は医療従事者が行う心肺蘇生法です。「除細動」とは心臓の動きが完全に止まる(心電図が直線となる心静止)前に出現する心室細動(心臓のけいれん、脈は触れません)を、体表から心臓に電気を流すことにより、もとの心臓の動きに戻すことです(図1)。


 2000年に発表された初めての国際的心肺蘇生法ガイドラインでは、ハンディタイプの自動除細動器automated external defibrillator(AED)による除細動が一次救命処置に含まれています。AEDのスイッチを入れ音声の指示通りに操作するだけで除細動が可能です(図2)。除細動が1分遅れると救命率は10%低下します。通報により救急車が現場に到着するまでに平均5〜6分かかりますので、この間のAEDを含む一次救命処置がどんなに重要であるかが理解できるかと思います。
 日本でのAEDの使用は2001年12月航空機客室乗務員に、2004年2月看護師に、2004年7月には一般人にも認可されました。東北大学病院には2003年4月に外来ホール、1階エレベーターホール、各病棟・外来に計40台のAEDが配備され、以来、緊急時には医者でなくてもAEDを使用できる講習が続けられています。また、一般開業医、ボランティアの皆さんに対しAED使用の指導者養成を進めています。さらに、2004年12月に東北大学病院を含む4団体は東北楽天ゴールデンイーグルスに対し宮城球場へのAED設置を要望しましたが、今後、多くの公共の場にAEDの設置が進むものと思います。

 

一次救命処置では心臓マッサージが必須

 しかしながら、心停止状態がつねに心室細動であるとは限らずAEDがいつも有効であるわけではありません。AEDが「除細動の必要はありません」と指示し、循環のサイン(息、咳、体動のいずれも)がなければ一次救命処置を続ける必要があります。しかし、心肺蘇生法の順序、詳細な手法は一度覚えても忘れられていることが多く、見ず知らずの人に口と口を合わせる人工呼吸を平気でできる人は少ないと思います。口対口人工呼吸のためのポケットマスクやフェイスシールドなども市販されていますが、これらがない場合にはハンカチを使用するのもよいと思います。また、前述した2000年のガイドラインには口対口人工呼吸が血液、吐物の付着などで難しい場合、またしたくない場合には「不要」と書かれています。心停止の初期であれば心臓マッサージだけでも人工呼吸を組合わせた場合と比較し蘇生率は変わりません。とにかく、一次救命処置では心臓マッサージだけは忘れずに施行していて下さい。

メディカルコントロール体制の整備へ

 1992年に誕生した救急救命士の業務拡大も進化中(2003年4月医師の指示なし除細動、2004年7月気管挿管、2006年4月には薬剤使用の認可)ですが、これらの背景には各医療圏で医師が救急救命士に迅速に指示、指導・助言ができるメディカルコントロール(MC)体制の整備が必須とされています。東北大学病院は救急科専門医と各診療科専門医との協調体制をとる救急告示病院ですが、仙台・黒川地域のMC体制を統轄するとともに、県MC協議会においても中心的に関与しております。2004年には県下より2175件の救急車を受け入れました。このうち心停止患者さんは69名(仙台市全体では654名)でしたが、脳蘇生を重視した新たな心肺蘇生法の研究にも取り組んでいます。

 

しのざわ ようたろう

1947年生まれ
現職:東北大学大学院医学系研究科 教授
専門:救急医学、侵襲学

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