はいた

なぜ歯痛ってこんなにひどいの?
  ―痛みと炎症との関連について―

笹野 高嗣=文
text by Takashi Sasano

歯の痛み

 「歯の痛みを知らない人は幸せだ」とか「歯の痛みと痔の痛みは人生最大の苦痛だ」とかいう話をよく耳にします。歯はとかく痛みの代名詞のように使われており、実際、歯科を受診される患者さんの多くは「歯痛」を訴えて来院されます。「歯痛」のなかで最も多いのは、虫歯による「歯髄」の炎症です。「歯髄」とは歯の中にある組織で、身体のなかでも特に神経が豊富で痛みに敏感な組織です。歯科治療において「神経を抜きましょう」とよく言われますが、この場合の神経とは「歯髄」のことをさします。
 今回は、『歯髄』の痛みについて最近の知見を交えて解説いたしましょう。

痛みと炎症

 痛みを伝える神経は身体のあちこちに張りめぐらされていて、痛みの信号を大脳に伝えています。言うまでもなく痛みは身体に起きている危険を知らせる信号であり、痛みを感じなければ人間は生きていくことができません。ところが、痛みを伝える神経は、実は炎症と大きな関わりを持っています。痛みを伝える神経にはたくさんの枝分れがあって、痛みの神経が興奮するとその信号は本来、大脳へと伝わりますが、枝分れの部分から別の枝にも興奮は伝わり、神経の末端で神経伝達物質を放出します。放出された神経伝達物質によって周囲の血管は拡張し血液成分の一部が浸みだしてきます。この結果、周囲は赤くなり腫れてきます。このことを神経原性炎症といい、痛みが炎症を拡大させることを意味します。

 

閉じこめられた歯髄

 さて、神経の豊富な歯髄では、神経原性炎症が起こりやすく、歯髄は赤くなり腫れてくるのですが、歯髄の周囲には硬い象牙質の壁があるため外側に膨れることができません。そのため、歯髄の内圧は高まり、この圧力は神経を刺激してますます痛みが強くなります。痛みが強くなれば、またまた歯髄は腫れて圧力は高まります。かくして、歯髄は終わりなき痛みと炎症にさらされるのです。

 

痛みの悪循環
 既に述べたように、痛みは炎症を拡大するとともに、ストレス刺激として脳に作用し、集中力、対人関係など日常生活に悪影響を及ぼします。歯痛は我慢しないで、はやく歯医者さんで診てもらって下さい。東北大学歯学部附属病院は皆様の口腔の健康をお手伝いいたします。


ささの たかし

1954年生まれ
東北大学大学院
歯学研究科 教授
専門:口腔診断学

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