にしざわ あきお
1949年生まれ
東北大学経済学部教授
専門:ベンチャー企業政策
わが国では、今回を含めて、これまで三回のベンチャーブームがありました。第一次ブームはオイルショックで終わり、第二次ブームは円高不況で潰えました。第三次ブームは、バブル崩壊後の不況のなかで始まり、最近の厳しい「貸し渋り」によって行き詰まり現象を見せながらも、なかなか終りを迎えられない、という特徴をもっているようです。
以前は、不況でベンチャーブームが終わっても、既存産業の大企業が情報化投資により生産効率を上げ、新製品を開発し、外需や公共投資に依存しながら立ち直りの手掛かりを得て、内需拡大に向かうという形で景気回復がはかられたのです。だが今回、こうした道筋は見えてきません。それどころか、外需依存は、円高や貿易摩擦を再燃させかねないのです。最近では、公共投資の効き目が落ち、外需はアジア経済の混乱でマイナスといった状況です。さらに、アジアの経済混乱に対して190億ドルも支援しているのに、G7会議では、アジア諸国に対して十分な市場開放を行わない日本が、経済破綻の元凶だといわれる有様です。今後、国内市場開放圧力が一層強くなることだけは、間違いなさそうです。
これに対応するには、既存産業の強化だけではなく、アジア諸国と直接競合しない新産業の創出が不可欠になっているのです。
わが国は、これまで「追う国」として、欧米先進国の産業を移植して、より洗練し、効率化することで、経済成長を遂げ、今やGDPは500兆円を超え、世界のGDPの二割近くを占める経済大国になりました。その結果、アジア諸国が同様の成長戦略を採り、これらの国から「追われる国」になってしまったのです。かつての欧米諸国のように、「追われる国」は、既存産業を守るだけでは、生き残れません。新しい産業を自ら生み出していかなければならないのです。
新しい産業を生み出すといっても、何が新しい産業になるかは良くわかりません。通産省は、昨年『経済構造の変革と創造のための行動計画』を発表し、そのなかで今後期待される新規・成長15分野を予測していますが、実際には余り信用されてはいないようです。それは全て市場のテストを受けて、判定していくしかないからです。まさにトライ・アンド・エラーの繰り返しになるかもしれません。これは、わが国にとって、新しい挑戦だといえます。
しかし、現実には、「追う国」の経済システムが余りに効率良く、無駄なく作られ過ぎてしまい、試行錯誤を認め難くなっているのです。そのため、新たに企業を起こそうとする人々に対して、まだまだ社会的にはマイナス要因の方が多く感じられるのが現実なのです。今は、「追う国」のシステムから「追われる国」のシステムへの移行期で、混乱は避けられませんが、第三次ベンチャーブームが、厳しい状況のなかにありながらも、終わりを迎えられないということは、少しずつではあれ、新しいシステムへの移行が始まったことを意味しているのだと思われます。