[研究室からの手紙]
素粒子・宇宙・地球の謎を解く ニュートリノ
鈴木厚人=文
text by Atsuto Suzuki
素粒子・ニュートリノとは
人間は、自分の生きている世界の正体や宇宙の原理を知りたいと願い、まずは宇宙が何から作られているかを探求してきました。そして、宇宙が6種類のクォークと6種類のレプトンと呼ばれる素粒子(基本粒子)から作られていることをつきとめました。素粒子・ニュートリノは、電子とともに後者のレプトン族に属し、3種類あることが確認されています。
このニュートリノは他の素粒子と比べて、反応力が極めて弱いという特徴を持っています。例えば、水中でニュートリノが反応を起こすまでに走行する平均距離は百光年にもなります。このようにニュートリノはほとんど物質と反応しません。このことは、自然界や地球、太陽、さらには宇宙の奥底で生成されるニュートリノが何物にも邪魔されずに、作られた時の情報を背負って宇宙を飛び交っていることを意味します。
今日の宇宙がどのようにして生まれ、進化してきたのか?星は、どのような経緯を経て一生を終えるのか?太陽の莫大なエネルギーはどのように作られるのか?これらの謎は、宇宙初期に生成されたニュートリノや、超新星爆発に伴うニュートリノ、太陽ニュートリノを検出することによって解き明かされるものと期待されています。また、地震の発生や火山の噴火など、地球のエネルギー生成のメカニズムも、地球内部の放射性物質の崩壊に伴うニュートリノによって解明できると言われています。
ニュートリノ検出を担うカムランド
宇宙のメッセンジャー・ニュートリノを検出するには、高い検出能力を持つ実験装置を用いて、ニュートリノ反応を見落とさないようにすることが必要です。
私たちの研究室では、岐阜県神岡町にある鉱山の地下1000mに、ニュートリノの標的物質となる1000トンの液体シンチレータを中心に備えた、液体シンチレータ・ニュートリノ/反ニュートリノ観測装置(カムランド)を1998年より建設しています(図1)。現在、実験装置のほぼ8割ができあがり、2001年7月からの実験開始を目標に研究者と学生が一丸となって装置の建設に励んでいます。
わが国のニュートリノ研究は世界でも先鞭をつけており、このカムランド建設は世界規模で注目を集めています。このニュースを聞きつけたアメリカの研究者たちより申し出があり、日米共同研究の道が開かれました。現在、カムランドでは、スタンフォード大学、カリフォルニア工科大学、カリフォルニア大学バークレー校などアメリカの11研究機関の約50名が装置の建設に参加しています。
図2 素粒子・宇宙・地球をのぞくカムランド実験
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素粒子の謎を解く
クォークやレプトンなどの素粒子は、さらにより基本的な粒子から作られているのではないのか、を課題に、粒子の統一像の追求が現在盛んに行われています。この謎解きの鍵を握るのが、ニュートリノに質量があるかどうかです。最近、東京大学を中心とするスーパーカミオカンデ実験で3種類のニュートリノの中の1種類に質量があることが検出され、研究にはずみがついています。
私たちは、神岡を取り囲んで立地している柏崎や敦賀、美浜、浜岡などの原子力発電所から発生するニュートリノを検出することによって、別の種類のニュートリノの質量の発見をめざしています。この発見に成功すれば、ニュートリノに質量があることが明確となります。これにより、従来の定説とされた素粒子や宇宙に関する理論がくつがえされ、また新たな理論の再構築が待たれることとなります。それだけに、私たちのニュートリノ研究に拍車をかけていきたいと意気込んでいます。